参議院選挙と改憲

孫崎享のメルマガ


参議院選挙がとうとう明後日になった。

 自民党の候補者の演説を見ると、「いかに民主党政権が悪かったか。この悪夢を再び繰り返すのか」と述べている。

 しかし、今次選挙ではそんなことは、まったく関係がない。

 どう転んでも、この選挙で野党政権ができる可能背は100%ない。従って、「いかに民主党政権が悪かったか。この悪夢を再び繰り返すのか」という発言は争点隠し以外の何物でもない。

 では、今次参議院選の最大意義は何か。

 自民・公明・維新が三分の二の勢力を確保し、改憲に向かう体制を作るか否かである。

 安倍首相が改憲で狙っているのは九条の改憲である。

 安倍首相は自衛隊員に誇りを持ってもらうためと述べているが、その必要はない。

 日本国民の自衛隊を見る目は東日本大震災で大きく変わった。当時、東電の原発を冷却しなければ、原発の大爆発が起こり、東京すら住めなくなる危険があった。大量の放射線が放出される中で、冷却作業は命の危険性があった。その際,誰がこの危険な作業を実施したか。当事者の東電ではない。警察でも消防署でもない。自衛隊が行った。私は防大に一時務めたが、私の教え子達も冷却作業に参加した。今や多くの国民は自衛隊の災害救助活動に心から感謝している。憲法九条を変えなければ国民の敬意が得られないものではない。

 では何のための改憲か。米軍の戦闘に自衛隊を差し出すためである。

 安倍首相はトランプ大統領の言うことは何でも聞く。F35戦闘機を買ってくれと言われれば買う。陸上イージスを買ってくれと言われれば買う。日本の防衛にどう貢献するかはどうでもいい。選挙後、農産品の関税を引き下げる。日本の農民がいかに苦しむことになるかはどうでもいい。

 だが、トランプ大統領に、自衛隊を海外に出して、一緒に戦闘してくれと言われても、それだけはできない。憲法があるからだ。安保法制をいじっても自衛隊を海外で戦わせるのは憲法上無理なことが解った。だから改憲なのである。

 そして、今その機運が急速に高まった。

・米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は9日、中東のイラン沖などを航行する民間船舶を護衛するため、同盟国の軍などと有志連合の結成をめざす方針を示した。これから数週間以内に参加国を募るとしている。

・西村康稔官房副長官は十八日午前の記者会見で、イラン沖ホルムズ海峡の安全確保に向けた米国の有志連合構想を巡り、米政府が十九日に開く説明会に在米日本大使館の担当者を出席させると明らかにした。

 こうした問題に現憲法では参加がなかなかむつかしい。



 憲法九条を見てみる。

 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

だから戦闘を行える条項を入れるのである。

例えば「世界の平和維持のため、国際貢献を行う武力を持つ」

 自民党は過去様々な問題ある政策を行ってきたが、自衛隊員を含め国民の命に最大の配慮を行う政策は行ってきた。多くの日本の首相は理不尽な軍事貢献を求められた時に「わが国には憲法があります。それも貴方の国に押し付けられて作らされたものです」と行って回避してきた。ベトナム戦争の時に佐藤栄作首相は自衛隊の派兵を断っている。憲法がなかったら、日本はベトナム戦争で参戦させられていたであろう。

 国連憲章は本来相手が武力攻撃してきた時のみ、武力行使を認めている。米国の主導する戦いは多くの場合、アフガン戦争、イラク戦争等、行うべきでない武力行使である。
今回も「有志連合」である。国連安保理決議に基づく、行動ではない。


  公明党は「加憲」という言葉を使う。

 憲法九条の1,2項を残しているので心配ないという。

 だが法律の解釈を行ってきている人々はこの「加憲」はペテンという。

 法律で、新たな条項ができて、以前の条文と矛盾ができた時には、新たな条項が優先する。
 新たな憲法で、「武力を使い国際貢献」が加えられ既存の「交戦しない」と矛盾する際、「交戦しない」の拘束力はなく、「武力を使い国際貢献」が優先される。
 今度の選挙は政権交代は何の意味も持たない。

安倍首相が求めるのは、自衛隊を米国に差し出す法的基盤を作ることだ。



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